ぬくブログ
マクロトレンド分析

移動平均線によるトレンド判定の有効性分析

今回は、S&Pのトレンドを測る指標として、移動平均線がどれくらい役に立つかを分析してみました。

今回有効性を分析する指標は、

  1. 10日移動平均線
  2. 50日移動平均線
  3. 100日移動平均線
  4. 150日移動平均線
  5. 200日移動平均線
  6. 10日移動平均線と50日移動平均線のクロス
  7. 50日移動平均線と200日移動平均線のクロス

の7つです。

①~⑤は、株価がその移動平均線を上回っていたら「上昇トレンド」を、下回っていたら「下降トレンド」を示しているものとします。
また、⑥と⑦は、短い時間の移動平均線が長い時間の移動平均線を上回っていたら「上昇トレンド」を、下回っていたら「下降トレンド」を示しているものとします。

これらの指標には、過去30年間、実際のところどれくらいS&Pのトレンドを正しく判定できていたのか?ということを分析していこうと思います。

正しいトレンドの定義

移動平均線がトレンドを正しく判定できているかを分析するためには、そもそも「正しいトレンド」というものがわかっていなければなりません。

これについては考え方次第で色々定義の仕方はあると思いますが、今回は

  • 「新高値更新 → 天井を付ける → 12%以上の下落 → 底をつく → 再度上がって新高値更新 → 天井を付ける」 という流れを想定し、
  • 「天井を付ける → 12%以上の下落 → 底をつく」の部分を「下降トレンド」
  • 「底をつく → 再度上がって新高値更新道 → 天井を付ける」の部分を「上昇トレンド」

とします。

12%という数字に深い意味はありません。15%だと深すぎて1サイクルが長くなりすぎることと、10%だと浅すぎると感じたため、適当に間をとった数字です。

さて、上のように考えた時、過去約30年間のトレンドは以下の通りになっていました。

2022-06-16の底については、まだその後新高値を更新したわけではないので、正確にはここが底になるかはまだわかりません。今回は便宜上、2022-06-16を底として、天井からどれだけ下落したかを記載しています。

その時によって長さも深さもかなりばらつきがありますが、上昇トレンドは平均で3年ほど続いて+102.5%、下降トレンドは平均で8ヶ月ほど続いて-27.6%、となっています。

分析する前はもっとトレンドの期間短くなるかな?と思っていたのですが、9サイクルしかありませんでした。ざっくりとした傾向として、近年はサイクルが短くなっている様子が見て取れます。

オニールのようなトレーダー手法では、マーケットサイクルはこの数分の一の短さだとは思いますが、今回は大きなサイクルの流れを把握するということで、この定義を採用していこうと思います。

各指標のトレンド正答率

では次に、各指標がどれだけトレンドを正しく判定できていたのかを見ていきましょう。

考え方としては、取引日ごとに、先ほど定義した「正しいトレンド」と指標が示すトレンドが一致していたら〇、一致していなかったら×として、1990年10月1日~2022年8月10日の間の8027取引日のうち何%の日が〇であったかを各指標ごとに計算しました。
結果は以下のとおりです。

  1. 10日移動平均線:63.7%
  2. 50日移動平均線:74.0%
  3. 100日移動平均線:79.5%
  4. 150日移動平均線:82.5%
  5. 200日移動平均線:83.7%
  6. 10日移動平均線と50日移動平均線のクロス:73.3%
  7. 50日移動平均線と200日移動平均線のクロス:81.6%

明確な傾向として、長期の移動平均線ほど「正しいトレンド」を判定できています。そもそも「正しいトレンド」が3~4年の長いサイクルだったので、納得の結果です。

200日移動平均線は正答率83.7%となりましたが、個人的には思っていたよりも高いなという印象を受けました。

これだけ高い正答率でトレンドを当てられるなら、指標が下降トレンドを指したら一目散に逃げて、また上昇トレンドを示した段階で買いなおすことで、暴落をうまく切り抜けられるのでは?とも思えてきます。

ただ、結論としてはその試みは多くの場合うまく行かなさそうです。その理由に関わる深堀分析をいくつかしていこうと思います。

ダマシの発生率

ダマシの発生率を分析してみます。ダマシというのは、、上昇トレンドになったと思って買ったら、次の日にはまた下降トレンドに入ってすぐに売るハメになった、みたいなケースのことですね。

以下の表は、各指標の正答率に加えて、各指標が示すトレンドの平均日数や、上昇トレンドがX日以下で終わる確率等を示したものです。

例えば200日移動平均線の列を見ていただくと、上昇トレンドの平均日数は平均で55.88日で、108回上昇トレンド(と同じ数の下降トレンド)が発生しています。
これは、「正しいトレンド」が上昇トレンドの平均日数727日、上昇トレンドの発生回数は9回だけだったのとはかけ離れた数字です。

なぜこんなことになるのか?
「上昇トレンド継続日数の分布」というところを見てください

見方として、「1日」という行を見ると、10日移動平均の値は「23.2%」となっています。
これは、10日移動平均線が示す上昇トレンドのうち、23.2%は1日で終わるということを示しています。株価が移動平均の上下を行ったり来たりしているケースですね。
これは200日移動平均線で見てみても29.6%となっており、約3割は一日だけの上昇トレンドとなっています。5日以内に終わるものは200日移動平均で51.9%なので、半分以上のトレンドは1週間と持たず消えていくことになります。そんなものは「トレンド」とは言えません。そんな短期のトレンドによって売って買ってを繰り返していたら、手数料ばかりが無駄にかかってしまいますので、移動平均を元にトレンドを測り、出たり入ったりするのはコスパが良くなさそうです。

一方で、「10日移動平均線と50日移動平均線のクロス」と「50日移動平均線と200日移動平均線のクロス」は、そのようなダマシの発生率が非常に低くなっています。

「50日移動平均線と200日移動平均線のクロス」に至っては、10日以下で終わるトレンドは1回も発生しませんでした。サイクルも14サイクル、平均の上昇トレンド継続日数は433.7日と、「正しいトレンド」に近い結果になっています。

では、50日移動平均線と200日移動平均線のクロスを指標として使えば、「指標が下降トレンドを指したら一目散に逃げる作戦」はうまく行くのでしょうか。

残念ながらそれも微妙です。その理由が、次で分析する「実際のトレンド反転とシグナルのタイミングのズレ」です。

実際の天井/底とトレンド反転シグナルのズレ

各指標がトレンド反転のシグナルを出すのは、実際にS&Pが天井又は底を打ってどれくらい経過してからなのでしょうか?

これまで分析から、200日移動平均と「50日と200日のクロス」に選択肢が絞れてきたので、もうこの2指標だけを分析することにします。

その結果が以下のとおりです。

見方をご説明します。

左の3列は、正しいトレンドの天井・底の日とその株価で、その右の方にあるのが、200日移動平均又は「50日と200日のクロス」がトレンド転換を示した日です。

例えば「2022-01-03」の行を見ていただくと、2022年1月3日に天井を打ってから、200日移動平均線が初めて下降トレンド入りを示したのは2022年1月21日でした。実際に天井を打ってから13取引日が経過しており、株価は8.3%下落していたことを示しています。

下の「ズレの平均」は、実際の天井/底と指標が示すトレンド反転シグナルが、株価と日数の面でどれだけズレていたかの平均です。
200日移動平均線を使ってトレンドを見た場合、天井から22.4日経過し、既に-8.8%下落してから下降トレンド入りのシグナルが出る、ということです。

そして、200日移動平均と「50日と200日のクロス」を見比べていただくと、「50日と200日のクロス」の方が明確にシグナル点灯が遅いことがわかります。(再掲)

それもそのはずで、ダマシの発生率が低い=トレンド反転の判定に慎重、ということは、実際にトレンドが判定した際にもそのシグナルを出すのが遅いことを意味します。

「50日と200日のクロス」を指標として、下降トレンド入りで売り、上昇トレンド入りで買うと、天井から-10%下がったところで売り、底から23.7%上がったところで買い戻すことになります。
それをやることで回避できるマイナスの平均が-27.6%なので、売りも買いも遅すぎる感が否めませんね。

あくまでこれは平均の議論なので、うまく行くときはうまく行くでしょう。リーマンショックみたいな大きな下落が来たときにはいったん売って買い戻した方が有利になるかもしれませんが、多くの場合にはそうではなさそうですね。

まとめ

というわけで、今回は移動平均線を使ってトレンドを測る有効性について分析してみました。

華麗に下降トレンドを避け上昇トレンドに素早くのるような凄腕ムーブはできなさそうですが、トレンドの正答率自体は結構高いので、銘柄の適正価格の値ごろ感を考える際や、素早く利確するか/利を伸ばすかの判断をする際には結構役に立つのではないかと思いました。

本日は以上です。読んでいただきありがとうございました。

 

 

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